自己破産|生活保護をめぐる国の対応

主文

1 被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成19年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告が30万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第1 請求

被告は,原告に対し,186万0446円及びこれに対する平成19年10月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の概要

本件は,原告が,被告市長(これは同市長から委任を受けている後記被告所長を指すものと解される。)に対する生活保護の申請に当たり,被告所長を含む被告職員が教示ないし生活保護の実施を怠った,生活保護辞退届を原告から取得し,違法に生活保護を廃止した,生活保護受給中に原告に対して誤った説明や運用をした等と主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償(一部請求)及びこれに対する違法行為後である平成19年10月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

2 前提事実(特記しない限り,当事者間に争いがない。以下,断りのない限り,月日の記載は平成18年を指す。)

(1) 当事者
ア原告は,昭和27年8月1日生まれの女性であり,別府市に居住している。
イ被告市長は,別府市内における生活保護の実施機関である。
別府福祉事務所長(以下「被告所長」という。)は,被告市長から,生活保護の決定及び実施に関する事務の委任を受けている被告の公務員である(弁論の全趣旨)。
別府市においては,福祉保健部内に社会福祉課,児童家庭課等の5課が設置されており,このうち,保健医療課を除く4課は,社会福祉法上の福祉事務所に当たるものとされ,社会福祉課には,保護第1係から第3係(以下,これらをまとめて「被告保護係」という。)まで及び社会係の4係が設置されている(甲18)。
(2) 生活保護の受給及び廃止
ア原告は,8月31日,夫であるA(以下「前夫」という。)からの暴力から逃れ,離婚手続をとる等のため,同人との間の子である小学6年生である三男B及び長女C(いずれも平成7年2月27日生。甲1)とともに大分市荏隈所在の大分県婦人相談所(以下「婦人相談所」という。)に一時保護された。
イ9月14日,原告の生活保護申請書が受理され,被告所長は,10月6日付けで,9月14日に遡って原告に対する生活保護を開始した。
被告所長は,11月30日,12月1日付けで,原告から提出された「生活保護変更申請書(辞退)」(甲4の2。以下「本件辞退届」という。)に基づき,生活保護を廃止する旨の決定をした(以下「本件保護廃止処分」ということがある。)。
(3) 生活保護の再開
原告は,その後,被告所長に対し,再び生活保護の申請をし,平成19年10月3日付けで生活保護が開始され,現在に至っている。

3 争点及びこれについての当事者の主張

(1) 争点(1)(原告に対する手続教示義務違反ないし生活保護実施義務違反の有無)について
(原告)
ア婦人相談所に一時保護されていた原告は,9月4日,同相談所担当職員であるDに依頼し,被告児童家庭課職員Eを通じて,被告Fに対し,原告が生活の本拠を置いてきた別府市において生活保護を受けることができるか否か相談した。
また,原告は,同月11日,被告保護係に赴き,相談室においてFに詳細な事情を説明して口頭での生活保護の申請をした。
そうでないとしても,遅くとも,同月12日には,これを行った。
原告は,前夫の暴力から保護されるため,被告児童家庭課の措置によって婦人相談所に一時保護として入所していたにすぎず,三男及び長女は依然として別府市内の小学校に通学しており,別府市内で居住することを望んでいたうえ,現在も居住しているのであるから,従前の居住地を喪失したものではなく,生活の本拠は入所前後を通じ別府市にあった。
したがって,生活保護の実施責任は,原告の居住地を所管する被告市長にあった。
仮に,原告が一時保護により居住地を喪失したとしても,被告児童家庭課の措置により入所していたものであるから,生活保護法(以下「法」という。)19条3項ないしその趣旨に照らし,被告市長に生活保護の実施責任があった。
また,同月11日については,生活保護の申請をしようとした時点において原告は別府市内にいたのであるから,別府市に現在地を有するものとして被告市長に実施責任があった。
なお,東京都や京都市においては,当初一時保護所へ入所保護を図った実施機関や暴力被害を受けた生活の場を所管する福祉事務所が実施責任を負うとされている。
イこのように,被告市長に実施責任があったことは明らかであり,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下「DV防止法」という。)8条の3の趣旨に照らしても,Fをはじめとする被告保護係職員らは,次のとおり,原告に対し,適切な教示をするとともに,直ちに生活保護を開始する手続をとるべきであった。
(ア) 9月4日
被告市長に実施責任があるのであるから,被告が保護申請を受け付けることができるとの説明を原告に対して行う義務があった。
仮に,被告市長に実施責任がなかったとしても,まず,大分市において生活保護申請をし,同市において生活保護が開始された後に別府市への移管手続をすれば別府市において生活保護を受けることができる旨教示すべきであった。また,家賃の上限が3万5700円であるとの教示をする義務があった。
(イ) 同月11日
同日において原告が口頭により生活保護申請をしたのであるから,これに従って生活保護実施手続をとる義務があった。
仮に,生活保護申請をしたと認められない場合であっても,上記(ア)同様の説明を原告に対して行う義務があった。
(ウ) 同月12日
遅くとも,同日において,原告が口頭による生活保護の申請をしたのであるから,これに従って生活保護実施手続をとる義務があった。
しかるに,Fは,上記義務を怠り,同月4日,@一時保護中に生活保護申請をするとすれば,現在地である大分市に申請をすることになる,A別府市で生活保護を受けるには,同市に住居を構え,既に居住していることが条件となる,B家賃の上限は2万7500円であり,家賃を後払いにできる場合には,保護費の中から家賃分の費用が支給される旨誤った説明をした。
Fは,同月11日にも,原告による生活保護申請に対応した手続をとらなかったし,上記Aの誤った説明をしたほか,翌12日にも,生活保護申請に対応した手続をとらなかった。
ウまた,生活保護が開始されれば,最低生活を満たすために必要と認められる費用が申請日に遡って支給されるから,申請日以降に家具什器を購入する場合は,扶助の内容として支給される可能性のあるものをとりわけ正確に教示しなければならない。
しかるに,被告Gは,この教示義務を怠り,9月27日ころ,原告から,冷蔵庫や洗濯機を安く分けてくれるところはないかとの相談に対し,保護開始決定前であるとの理由で,Gの知っている中古業者を紹介するにとどまり,上記の教示をしなかった。
以上のほか,被告保護係職員らは,あらゆる場面で教示を懈怠した。
(被告)
ア婦人相談所の一時保護施設入所者については,他の居住地がない限り,居住地がないものと認定し,生活保護を実施する際は,原則として現在地保護として当該施設所在地を所管する生活保護実施機関が実施責任を負うから,一時保護中の原告が生活保護を申請する場合の実施責任は大分市長が負う。
そして,上記にいう「居住地」は要保護者の居住事実がある場所のことであるから,別府市で保護するためには別府市内に居住していることが必要であるところ,原告は,配偶者暴力の被害を受けたことにより,被告児童家庭課の措置ではなく,原告の意思に基づいて,別府市の居住地を離れたから,別府市が居住地であるとはいえないし,また,法19条3項ないしその類推適用の余地はない。
さらに,一時保護中の原告が9月11日にたまたま別府市にいたからといって,これを現在地とすることはできない。
なお,原告の主張する実施責任に関する基準は,東京都や京都市のように,地方公共団体相互の取決めによるものであって,大分県内においてはこのような取決めがされていない。
以上のとおり,原告に対する実施責任は大分市長が負う。
イ(ア) 9月4日
Fは,大分市に保護申請することを教示しているし,また,まず大分市に申請をして,その後移管手続をとることを教示すべきであるということはできない。
また,別府市における住宅扶助支給限度額は2万7500円であり,3万7500円ではない。
したがって,原告の主張する9月4日の教示は,違法なものであるとはいえない。
(イ) 同月11,12日
次に,Fが原告と面接したのは9月12日であって,同月11日ではない。
しかも,法施行規則2条1項が書面による申請を求めていることからすれば,9月12日に申請があったとはいえない。
原告から申請があったのは,申請書が提出された同月14日である。
したがって,9月11日及び同月12日の時点で生活保護の手続をとる義務はない。
原告は,9月11日に別府市内のアパートを契約し,翌12日に入居する旨の説明を同日にFに対してしたことから,Fは,実施責任が別府市長にあると判断し,生活保護面接及び相談を行ったものであり,上記の実施責任の判断基準に照らせば,Fの対応が違法であるとはいえない。
(ウ) 9月27日ころのGの教示義務違反の主張は争う。
(2) 争点(2)(違法な保護廃止の有無)について
(原告)
ア生活保護の利用者が辞退届を提出した場合において,これに基づく生活保護の廃止が適法であるためには,利用者が,生活保護を継続できることを認識したうえで,実施機関が辞退を勧めることなく,任意かつ真摯に辞退を申し出たこと,利用者に経済的自立の目途が立っており,生活保護の廃止によって窮迫した状況に陥ることがないこと,実施機関が利用者に保障された諸権利や手続等を教示することのいずれもに該当する場合でなければならない。
イしかるに,Gは,10月10日,生活保護開始に当たり,原告に対し,原告が働けることなどから,12月1日までの短期保護の条件で生活保護が認められたことを説明したうえ,本件辞退届を示して,この紙を書かないと,お金が出るかでないか分かんないよ。」,「いつまでも保護は受けたくないでしょう。」と言い,これに署名押印するよう求めた。
原告は,同届を提出しなければ生活保護が受けられないと考え,署名押印のうえ,申請日付を除き記載し提出した。
そして,被告保護係職員(ケースワーカー)であったHらは,原告が,本件辞退届を返すこと及び生活保護を廃止しないことを希望したにもかかわらず,同届を返還することなく,かつ,11月30日又は12月1日の時点における生活保護継続の可能性等について原告に対して説明することもなく,同日付けで原告に対する生活保護を廃止した。
以上からすれば,原告が,被告からの勧奨によらず,任意かつ真摯に辞退を申し出たとはいえない。
また,10月10日及び11月30日又は12月1日の時点において,原告に経済的自立の目途は立っていなかったし,被告保護係職員らは,原告に対し上記諸権利や手続等の教示もしていない。
ウしたがって,原告から本件辞退届を提出させて原告に対する生活保護を廃止したことは違法である。なお,このことは本件辞退届が仮に11月30日に完成して提出されたものであるとしても変わるものではない。
(被告)
アGは,10月10日,原告から,12月まで保護を受けるつもりはないとの申出があったため,原告に自立への目標を持ってもらう目的で,本件辞退届を提出してもらったのであって,強制的に取得したものではない。
なお,同届の辞退理由欄の記載はされていなかった。
イ原告は,11月30日,被告保護係を訪れたが,その際,Hは,原告が本件辞退届の上記空欄を記入したうえで辞退の申出をすることなど全く想定していなかった。
Hは,原告に対し,同月分の給料収入によれば同月分の保護費が減額されること,12月分の保護費については,給料収入に加え,児童扶養手当が収入認定されるので,保護費が減額されること等を説明したところ,原告は,児童扶養手当が収入認定されて保護費が減額されることに納得せず,生活保護を止めれば同月の児童扶養手当を返納しなくてよいのか尋ねた。
Hがそのとおりである旨回答したところ,原告が,生活保護辞退を申し出た。
そのため,Hは,生活保護を止めても生活できるのかなどを聞き取り,生活保護辞退の意思を確認したが,原告が生活保護を辞退したいとの強い意思を有していたことから,原告に本件辞退届を完成してもらうこととした。
ウしたがって,本件辞退届の当初の取得及びその後の提出に基づく生活保護の廃止について,被告市長に裁量権の乱用ないし逸脱はなく,原告に対する生活保護を廃止したことは適法である。
また,被告市長に,原告に対する生活保護廃止をすることについて故意又は重過失はない。
(3) 争点(3)(被告職員の発言等の違法性の有無)について
(原告)
ア原告は,生活保護申請のわずか約1か月前に前夫からの暴力によって生命の危険が脅かされ,離婚手続の際に警察官の立会いが必要であったことが被告保護係職員らには明らかであったはずである。
したがって,同職員らは,原告から生活するための布団もないと相談された際,原告が前夫と接触することは未だ危険であるから,一時保護所の所在地を所管する大分市で保護を受けることができれば,同市から居宅確保のための必要な給付が受けられるので,それらを活用して別府市で生活することができると教示すべきであった。
しかるに,Gは,原告に対し,前夫のところから布団をもらってくるように指導した。
この教示は,被害者である原告の人権を無視し,原告自身の生命又は身体に危険を及ぼすおそれが大きく,違法性は重大である。
イまた,Gは,原告に対する悪意を込めて,I民生児童委員に対し,原告が子供と家を飛び出したままであったために持ち合わせの金銭がない状態で,生活保護を受けるために住居を確保したため,社会福祉協議会や友人から借りた計10万円をすぐに費消したのは当然であるといえるのに,自らに都合のよい事実のみを記載したうえ,その使い方を中傷する内容を記載し,かつ,何ら根拠なく,「当課だけでなく児童家庭課でもかなりの問題がありました。」とも記載した文面を送付した。
このことは,原告のプライバシーを侵害し,意味なく中傷するものであって,悪質極まりない。
また,このような中傷行為によって,原告は,Iからの支援を受けることが困難となった。
ウGやHは,原告に対し,常に高圧的な態度をとり,暴言を吐いた。
また,Hは,全く金銭を持ち合わせていない原告に対し,何度も保護費を現金で返還するよう要求し,それが困難であると述べる原告に対し,「それはそっちの事情でしょう。」「余分に出しているんだから返すのが当たり前でしょう。」と,他の市民がいるにもかかわらず罵声を放ち,返還請求を続けた。
このようなGやHの言動は,原告を精神的に追い詰めた。
(被告)
アGは,原告から,離婚後も三男が学校帰りに原告が前夫と従前同居していた住居(以下「前夫宅」という。)に立ち寄ったり泊まったりすることがあること,前夫と同居していた長男と二男が引越しの際に原告を手伝ったこと等を聞いていたため,長男や二男に布団を持ってくるよう頼むよう勧めた。
また,原告が婦人相談所入所中にも前夫宅から衣料品を持ち帰ったこと,婦人相談所の担当者も布団についてGと同様の指導をしたこと,原告が別府警察署生活安全課の職員に対して,前夫との離婚後も従前の住居に住みたいと希望したことなどからすれば,Gの指導は違法とはいえない。
イIに対する文書は,Iからの文書による質問等に対して,被告の見解を示すため,必要な範囲で被告の判断を示したものであって,根拠のない中傷ではないし,ましてやIからの支援を抑止する意図はない。
ウ被告保護係職員らが,原告に対し,高圧的な態度をとったり,馬鹿にした口調で対応したことはない。
Hは,11月分の給与支給後に給与明細書を持参するよう指導したにすぎず,この際Hが原告を叱責したことはない。
(4) 争点(4)(損害額)について
(原告)
被告職員の違法行為による損害は,次の合計186万0446円である。
ア手続教示義務違反による損害17万3740円
原告に対する手続教示義務違反(争点(1))により,原告は,生活保護が認められれば保護費として支給されるはずであった次の(ア)ないし(ウ)の額を支出せざるを得なくなったし,本来であれば(平成18年)9月4日,遅くとも同月11日には支給されるはずであった保護費が得られなかった。
原告は,これらのうち,次の(ア)ないし(ウ)の合計である上記額を損害としてその賠償を求める。
(ア) 敷金7万5000円
温泉入会金5000円
洗面器代金240円
(イ) 家具什器費3万9200円
(ウ) 被服費5万4300円
イ違法な保護廃止による損害101万7706円
被告職員が違法に本件辞退届を原告から取得したことにより,12月1日に原告に対する生活保護が廃止されたため,得べかりし保護費が得られなくなった。
原告の最低生活費215万7800円から原告の収入認定額(賃金から控除額及び通勤交通費を控除した額)63万7294円及び公的扶助59万5000円を控除したうえ,三男及び長女の入学準備金9万2200円を加えた上記額が損害となる。
ウ慰謝料50万0000円
被告職員らによる誤った教示(争点(1))及び違法な保護廃止(争点(2))によって原告は苦しい生活を強いられたのであり,かつ,被告職員らの違法な発言(争点(3))によって,原告は,羞恥の思いや屈辱感を抱かされ,著しい精神的苦痛を受けた。
これを金銭評価すれば,50万円を下らない。
エ弁護士費用16万9000円
(被告)
アまず,後記のとおり,得べかりし利益は損害とならないというべきである。
イまた,個別の費目についても,原告の生活保護申請が9月14日であるから,敷金は,生活保護申請以前に生じたものであって,これが損害となることはない。
温泉入会金や洗面器代金は,生活保護の一時扶助の対象ではない。
家具什器費は,具体的な物品の申請がされ,これに必要性が認められる場合に2万4500円の範囲で現物支給するものであり,3万9200円を限度とする特別基準が常に認められるわけではないうえ,原告から具体的申請がない以上,損害とならない。
被服費も,現物支給を原則とするものである。原告からは,布団についても含め,具体的相談や申請はされていないから,損害とならない。
違法な保護廃止による損害のうち,平成19年2月,3月及び6月の収入認定額は合計23万9162円ではなく合計29万6482円である。
また,通勤交通費9万5766円は実費額が不明である以上,認定ができないから,これを除いて最低生活費からの控除額を算出すべきでない。
入学準備金は,平成19年7月18日に原告が被告から学校共済として6万0400円を支給されており,これ以外に実際に支出したか否か明らかでないから,損害とはならない。
? 行政処分の効力と国家賠償訴訟の関係について
(被告)
本件のような金銭上の権利義務に係る処分については,処分が取り消されることのないまま国家賠償請求訴訟を認めることは,取消訴訟における出訴期間や不服申立前置の意義を失わせることになって許されないというべきである。
仮に,これが肯定されるとしても,公務員に故意又は重過失がある場合に限られるというべきであるし,また,得べかりし利益については,これを認めると,本件保護廃止処分の効果を否定することと同様になり,行政処分の公定力に抵触するから,損害とならないというべきである。
(原告)
国家賠償法に基づく請求権は,行政処分の取消又は無効確認判決を前提とするものではない。
このことは,金銭上の権利義務に関わる行政処分であるか否かで異なるところはない。
損害の点も,本件請求のうち,被告の教示義務違反による損害賠償を求める部分は,申請に対し却下されたことを争うものではなく,同義務違反によって申請ができなかったことの違法性を争っているのであり,取消訴訟を適時に提起することは困難であったのであり,また,違法な生活保護廃止による損害賠償を求める部分についても辞退届による生活保護廃止という形式がとられ,原告において生活保護廃止の適否を争うことができるという認識を有することができなかったものであるから,これらについて違法性を前提に国家賠償請求を認めても,出訴期間や不服申立前置の意義は失われないというべきである。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

前提事実,証拠(甲1,3〔被告保護係のケース記録票等〕,14〔婦人相談所のケース記録等〕,16,17,乙14,15,23,証人F,同G,同H,原告及び後掲証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 原告らの一時保護施設への入所等
ア原告は,前夫からの暴力から逃れ,離婚及び自己破産手続等をとりたいが,他に身を寄せるところがないため,8月30日,別府警察署に相談し,同署の紹介により被告児童家庭課(子育て支援相談室)を訪れた。
同課のEは,電話を架け婦人相談所に相談をし,原告に対し,同相談所を訪れるよう指導した。(甲14の2,甲17の1・2・4)
イ原告は,8月31日午後,三男及び長女を同伴して,婦人相談所を訪れ,相談のうえ,同人らと共に,生活保護を受けることを条件として,一時保護された。
婦人相談所職員のJは,二度にわたって別府市児童家庭課に電話を架け,生活保護や母子支援施設入所の可否について尋ねたところ,生活保護は原告が神奈川県にある住民票を異動することで申請可能になるのではないかと思われること,同施設入所は措置できないこととの回答を得た。
他方,婦人相談所職員のKは,被告児童家庭課から電話を受け,原告の経緯等について情報提供を受けた。
その際,前夫は追ってくるような人物ではなく,その心配はないと原告が話していた旨の情報が伝えられた。
(以上につき甲14の3〜12)
(2) 生活保護申請書受理に至る経緯
ア原告は,9月4日,婦人相談所電話相談室において,職員に対し,生活ができないので生活保護の手続を早くしたい,子供を早く学校に行かせたいので,二男に迎えにきてもらい,前夫の元に返したいなどと述べた。
同職員は,被告児童家庭課Eを通して,被告保護係のF(生活保護面接相談員)に対し,原告の氏名等は明らかにせず,別府市に住んでいたが,夫の暴力から逃げて一時的に婦人相談所に保護されている母子が別府市において生活保護を受けることが可能か否か相談した。
Fは,婦人相談所に一時保護されている間に申請するのであれば,大分市に申請することになると回答したため,上記職員が,相談対象の女性が別府市で生活する考えであることを伝えると,Fは,住むところを定めて,すでに別府市に住んでいることが条件となると回答した。
そして,家賃等の条件の問合せに対し,Fは,契約をして入居していることが生活保護を受けるための条件となること,別府市において生活保護費として支給できる家賃の一般的な上限額が2万7500円であり,敷金等(3か月分の家賃と手数料)として4か月分の家賃がかかること,家賃を後払いにできるなら,生活保護からその費用が出ることを回答した。
そこで,原告は,二男に電話を架け,アパート探しを依頼した。
(以上につき甲14の13)
イ原告は,翌5日から,アパート探しや,神奈川県から転出したまま転入手続が未了の住民登録につき,別府市への転入手続のために必要な書類を取り寄せる手続をしたほか,同月8日には,前夫宅から,紙袋いっぱいに衣料品を持ち帰ってきた(甲14の13)。
ウ原告は,9月11日,別府警察署で前夫との協議離婚が成立したので,別府市の戸籍係に離婚届を提出するとともに,被告児童家庭課を訪れた。
同課の職員は,生活保護の件で原告が訪れているので保護係に連れて来ていいのかFに尋ねたところ,Fは,婦人相談所の所在地である大分市に相談するべきことと,別府市で生活保護の申請をするのであれば,現にアパートに居住している必要があることを伝えた。
児童家庭課の職員はこの旨原告に説明したところ,原告はアパートを探し,賃料を月額2万5000円とする建物賃貸借契約を締結した(甲5)。
(以上につき甲3の3,14の13,17の8,証人F〔6,20〜22,36,37頁〕)
(この点,原告は,児童家庭課を訪れた後,保護係を訪問し相談室でFと個室で面談した旨供述するが,相談の際に作成される受付簿(乙7)に記載がないし,これと反対趣旨のFの証言に照らし,採用できない。)
エ翌12日,婦人相談所職員は,被告保護係に対し,一時保護中に被告に対して生活保護の申請をすることの可否を再度問い合せたが,アパートに入居していることが条件であるから,同申請はできないと回答された。
その後,原告は,前日に別府市役所で生活保護申請は1日でも早くしたほうがよいと言われたので,退所したいと申し出た。
婦人相談所職員が原告に対して生活費等について質問をしたところ,原告は,生活費は当時の所持金1万円と同月20日に入る5万円の一部をもって充てると回答した。
また,原告からの申出に対し,婦人相談所職員は,食器類は同相談所で支給できるが,布団は長男や二男をして前夫宅から持ってきてもらってはどうかと提案をした。
同職員は,なおも翌日の退所を促したが,原告は,いてもたってもいられない,今日生活保護申請をしたいと述べたため,同職員らは,協議のうえ,原告の退所を認めた。原告は,同日15時10分,婦人相談所を退所した。
(以上につき甲14の13・14)
(3) 生活保護の開始
ア原告は,退所後,被告保護係に赴いたところ,Fが対応した。
原告は,Fに対し,相談室において,生い立ちや前夫との離婚の経緯,生活費に困っていること,アパートに入居したこと等を話したうえ,生活保護について相談した。
Fは,原告から,資産等や児童扶養手当及び児童手当を申請予定であることなどを聞き取ったうえ,原告に対し,生活保護申請書(乙28)を交付した。
また,Fは,原告に対し,アパートの賃貸借契約書等を持参するように指示した(原告〔25,26頁〕)。
そこで,原告は,同申請書を持ち帰った。(甲3の3,乙7,28)
(原告は,同申請書に記入のうえ,当日,Fに交付したかのような供述もする〔26〜31頁〕が,他方であいまいな供述もし,また,甲17の3の記載,証人Fの証言に照らし,採用できない。)
イ原告は,9月14日付けで生活保護申請書を作成し,同日,被告保護係に入手したアパートの賃貸借契約書写し等とともに(原告〔7,25頁〕)これを提出し,受理された(甲3の2,乙7)。
ウ同係は,同日以降,扶養調査,銀行預金調査,生命保険保有調査,戸籍調査等を実施し,原告の当時の資産等を確認したうえ,新規実態調査の担当者であるG及び地区担当者であるHが,同月19日,原告のアパートを訪れ,原告と面談をし,原告の生活歴や扶養義務者,稼働状況等を聴き取った。原告は,同月20日,生活資金を借り受けるため,社会福祉課保護係を訪れたが,同係では貸付ができないため,Gの指導に基づき,同月22日までに,社会福祉協議会から5万円を借り受けた。
なお,原告は,このころ,ホテルの厨房係への就職が決まった。(甲3の2)
エ同係においては,10月3日,原告に対する生活保護の開始の可否に関し,ケース診断会議を実施し,原告が離婚し,小学校6年生の子2人と一緒に生活しており,9月25日から稼働を始めたが収入がまだないし,同係からの照会に対し,原告の兄や前夫,長男,二男が原告を扶養できないと回答したことから,給料が出るまでの短期保護にて開始することに決定した。
10月5日には,原告について,10月中旬には最初の給料が出る予定であり,11月には1か月分約14万円の給料も出ることになっているほか,12月には児童扶養手当の支給も開始される予定であるため,短期の保護を条件として9月14日付けで生活保護開始決定をすることについて,被告所長の決裁を得た。
そこで,同所長は,翌6日付けで生活保護開始決定をし,その通知書(乙9)を原告に郵送した。
(以上につき甲3の2,13の2,乙9)
オ原告は,10月10日,求めに従って,被告保護係を訪れ,Gから,「生活保護のしおり」(乙12)を用いて,生活保護とは何か,生活保護の権利と義務について,保護費について,地区担当員等について説明を受けた。
その際,原告から,布団がないので買ってほしいとの依頼があったが,Gは,まず,前夫方にある布団を持って来られないか,長男や二男に頼むよう指示した。
また,この際,原告は,Gの求めに応じて,署名押印のうえ,申請の日付を除き,記載事項を記載した12月1日以降の保護を辞退する旨の本件辞退届(甲4の2)を提出した。
(以上につき甲3及び4の各2)
(この点について,証人G及び同Hは,辞退理由欄の「傷病治癒」及び「収入の増加」欄2つの○の記載はこの時にされたものではないと供述するが,これらの事由はいずれも当時想定することができたものであるし,また,Gは12月1日付けの辞退届の提出を求めたものであるので,原告が供述するように申請日付を除き記載されたと考えるのが自然であるから,採用できない。)
カ原告は,直後に,民生児童委員であるIの元へ赴き,本件辞退届の提出の件で相談した。
Iは,同月12日,「L 生活保護認定・辞退の経過」と題する書面を作成して,被告保護係に提出し,書面での回答を求めた(上記日付については,被告の平成20年5月20日付けの釈明書)。
同書面には,「12月1日に(同日付けの意味)生活保護辞退誓約書を作成した根拠について確認をしたい。生活保護が始まったばかりで生活の安定が図れていない時期に生活保護辞退は早急ではないのか? 生活道具等は不足しており支給された費用で買いそろえて行く段階で生活設計が立たないと考えますが,行政側としてどのように考えておられるのか? 生活保護辞退については最短でも6ヶ月と私は思います。そのためにケースワーカーがおり状況を判断して辞退になるものと考えます。(半強制的なものがあったのでは無いのでしょうか?)」,「Lさんの申し出だけで判断したくありませんので,今回出向きました。」との記載がある(甲13の1)。
これに対し,被告保護係は,同月19日,書面(甲13の2)で回答した(上記日付については,被告の上記釈明書)。
(4) 生活保護の廃止
アHは,11月29日,原告宅を訪問したが,長女のみが在宅しており,長女は,Hに対し,学校から帰宅したら原告がいなかったので原告の所在が不明である,原告は夕方に病院に行って家を留守にすることもあると話した。Hは,長女に対し,原告が帰宅したら連絡するよう伝言を依頼した(甲3の2)。
イ原告は,翌30日,給与明細書を持参して被告保護係を訪れた。当日,原告は,国民健康保険被保険者資格取得届(乙30,31)を提出した。
(甲3の2。なお,同号証の12月1日の日付(3枚目表)は11月30日の誤記と認める。)
被告所長は,本件辞退届に基づき,12月1日付けで,原告に対する生活保護を廃止する本件保護廃止処分をし,このころ原告に通知した(甲3の2,通知書につき乙29)。
(5) 生活保護の再開
原告は,その後,被告所長に対し,再び生活保護の申請をし,平成19年10月3日付けで生活保護が開始され,現在に至っている。

2 争点(1)(原告に対する手続教示義務違反ないし生活保護実施義務違反の有無)について

(1) 原告は,@9月4日におけるFの教示義務違反,A同月11日又は12日に申請をしたのに生活保護を同日付けで開始しなかった違法,B同月11日における教示義務違反,C同月27日ころにおけるGの教示義務違反の4点を主張するので,項を分けて検討する。
(2) 9月4日におけるFの教示義務違反について
ア原告は,生活保護の実施責任が被告市長にあるのにこれを教示しなかった,仮にそうでないとしても大分市で申請をした後に移管手続をとることができることを説明しなかった,家賃の上限額について教示義務違反があったと主張する。
イ(ア) 生活保護の実施責任を負うのは,原則として,要保護者の居住地を所管区域とする福祉事務所を管理する市長等であり,居住地がないか,又は明らかでない要保護者については,その現在地を所管区域とする福祉事務所を管理する市長等である(法19条1項)ところ,「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知(本件当時有効であったもの。以下,行政機関による通知について同じ。)。以下「局長通知」という。)によれば,DV防止法による婦人相談所が自ら行う若しくは委託して行う一時保護の施
設に入所している者については,他に居住地がない限り,居住地がない者と認定することとされている(乙2〔347頁〕)うえ,配偶者からの暴力の被害者については,「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策に関する基本的な方針」(内閣府,国家公安委員会,法務省,厚生労働省平成16年告示第1号)において,DV防止法による婦人相談所が行う一時保護の施設の入所者については,他に居住地がない限り,居住地がない者と認定し,現在地保護を行うため,その場合は,当該施設の所在地を所管する保護の実施機関が生活保護の実施責任を負うことが必要であると定められている(乙5〔5枚目〕)。
(イ) 原告は,前記認定(1(1),(2))のとおり,前夫から暴力を受けて別府市所在の前夫宅を出て,大分市所在の婦人相談所に8月31日から9月12日15時10分ころまで入所していたものであって,配偶者暴力による被害者がその配偶者の居住する場所に戻る意思を有しないのが通常であることに照らすと,原告は,別府市の居住地を失ったうえで婦人相談所に入所したものである。
そうすると,上記の局長通知等に従えば,入所中における原告に対する生活保護の実施責任は婦人相談所所在地である大分市長にあるから,原告のような女性についての一般的な生活保護の実施責任については,このことを教示すれば足りるというべきである。
そして,Fは,前記認定のとおり,婦人相談所において一時保護中に生活保護の申請をするのであれば,大分市にすべきものと教示をしたから,Fについて,教示義務に違反した過失はない。
(ウ) これに対して,原告は,婦人相談所入所前後のいずれも別府市に居住しており,同入所中も別府市における居住を希望していたから,同入所中においても居住地が別府市内にあったと主張するが,上記のとおり,居住地は失われていると認められるうえ,居住地は,要保護者の客観的な居住事実のある地をいい,要保護者の居住意思の対象地をいうのではないから,原告の主張は採用できない。
また,原告は,法19条3項を適用ないし類推適用すべきであり,これにより原告に対する生活保護の実施責任が被告市長にあると主張するが,現に保護を受けている者(被保護者)を救護施設等に入所させた等の場合についての規定である同項を適用する要件を欠くことは明らかであるし,これらの場合とDV防止法に基づく場合とでは事情を異にし,類推適用する前提を欠くというべきである(なお,原告は被告児童家庭課の措置により婦人相談所に入所した旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。)から,採用できない。
なお,東京都においては,居住地がない被保護者(入所と同時に保護を開始される者を含む。)について,当初一時保護所へ入所保護を図った実施機関が保護の実施責任を負い(甲10の1・2),また,京都市においては,DV防止法に基づく一時保護入所者から生活保護の申請があった場合には,暴力被害を受けた生活の場を所管する福祉事務所が実施責任を負うとされているが(甲11の1・2),大分市と被告との間で,このような取り決めがなされていることを認めるに足りる証拠はないし,意見書(甲15)は,婦人相談所入所前の居住地を所管区域とする福祉事務所(長)に生活保護の実施責任があるとするが,独自の見解であるといわざるを得ない。
(エ) そのうえ,原告は,仮に別府市長に実施責任がなくても,大分市に申請をした後,移管手続をとることができることを教示する義務があるとも主張しているところ,このような手続をとることが法的には可能であると解されるから(甲12の1〜3〔14頁〕,証人F),大分市の婦人相談所に一時入所していながら,別府市における生活を強く希望していた原告に対しては,そのように教示するのが最も適切であったということはできる。
しかし,そのような教示をしなかったのは,必ずしも相当ではないということができるとしても,これが直ちに教示義務違反となり,違法とまで評価しうるとするのは困難というべきである(なお,実際に上記のような手続がとられることは必ずしも一般的ではないと窺えるところである。)から,原告の主張は採用できない。
ウまた,家賃については,法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号)別表第3の住宅扶助基準において,その費用が厚生労働大臣が別に定める額(限度額)の範囲内の額とされており,局長通知によれば,その限度額により難い家賃,間代等であって,世帯員数,世帯員の状況,当該地域の住宅事情によりやむを得ないと認められるものについては,限度額に1.3を乗じて得た額の範囲内において特別基準の設定があったものとして必要な額を認定して差し支えないものとされている(局長通知第6の4(1)オ。乙2〔366頁〕)ところ,別府市における9月当時の限度額は2万7500円であった(乙17)。
そうすると,特別基準の設定があったものと認めるには,個別具体的な事情を考慮する必要があるというべきところ,前記認定(1(2)ア)のとおり,9月4日には,Fは原告の他に子がいることを認識していたものの,原告から具体的な相談を受けたのではなく,一般的事項についての照会を受けたにすぎず,しかも一般的にはと断って回答をしたものであるから,この場合においては,一般的かつ原則的な事項の回答にとどまったとしても,直ちに教示義務違反となるとはいえないというべきであって,原告の主張は採用できない。
(3) 9月11日又は12日に申請をしたのに生活保護を同日付で開始しなかった違法について
法においては,生活保護の申請方式についての定めはない(7条)から,口頭による生活保護の申請をすることも可能であると解される。
もっとも,生活保護の申請を受けた保護実施機関は,法24条1項所定の対応を要請されることからすれば,保護の申請がされたかどうかは客観的に明らかである必要があり,法施行規則2条1項が,申請について書面の提出を求めている趣旨は,この点にあると考えられる。
そうすると,口頭による保護の申請については,特に申請を口頭で行う旨を明示して申請するなど,申請意思が客観的に明確でなければ,これを申請と認めることはできないというべきである。
そして,原告は,前記認定(1(2)ウ,エ,(3)ア)のとおり,9月11日には,被告児童家庭課において,生活保護の申請が可能かどうか問い合わせたが,それにとどまっているし,また,同月12日には被告保護係において,Fから説明を受け,生活保護申請書の交付を受けたものであるが,その際,原告が同申請書を提出することに異議を述べ,これによらず口頭で生活保護の申請をする旨を明示したなどの事情は窺われないし,また,現に同月14日には生活保護申請書を提出していること,生活保護の申請の意思があるとして申請書を交付しても実際に申請書を提出しない者も15%程度いること(証人F〔28頁〕)等も合わせ考えれば,原告の申請意思が客観的に明確であると認めるに足りないし,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,両日において生活保護の申請があったとは認め難い。
したがって,生活保護の申請がない以上,これに対応する手続をとる義務は被告所長にないというべきであるから,この点における同所長の対応に違法はなく,原告の主張は採用できない。
(4) 9月11日における教示義務違反について
ア原告は,9月11日に生活保護の申請がされたと認められなくとも,大分市で申請をした後の移管手続をとるべきことを教示すべきことなどを主張するが,この点についての判断は,上記(2)において判示したとおりである。
イこの点に関し,原告は,同日においては別府市役所内に原告がいたのであるから,現在地保護の実施責任があったと主張しているところ,この主張は,同日において現在地保護が可能であることを教示すべきであるのに,これを怠り,別府市内に居住している事実がないと生活保護を申請できないと述べたという教示義務違反があるとの主張であると解される。
しかし,当日原告がFと面談していない点はともかく,仮に現在地保護が別府市において可能であったとしても,前記のとおり,婦人相談所の一時保護施設入所者は,現在地保護として,当該施設の所在地を所管する保護の実施機関が生活保護の実施責任を負うとされていたことに照らせば,生活保護の実施機関としては,この取扱に従うのが原則となるというべきであるところ,原告は,前記認定のとおり,同日には,別府市役所において生活保護の申請が可能かを問い合わせたにとどまり,別府市における保護の希望を特に明示したなどの特段の事情は認められないから,現在地保護が可能であることを教示しなかったことをもって教示義務違反があるということはできない。
(5) 9月27日ころにおけるGの教示義務違反について
原告は,申請日以降に家具什器を購入する場合は,扶助の内容として支給される可能性のあるものをとりわけ正確に教示しなければならないと主張するが,生活保護の開始が申請時に遡るとしても,生活保護の申請があったからといって未だ保護開始決定がなされていない段階でそのような注意義務が生ずるとは解されないから,Gに教示義務違反があるということはできず,原告の主張は採用できない。
(6) 原告は,その他に,あらゆる場面で,被告職員には教示義務違反があったとも主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
以上のとおり,被告職員らには,原告の主張する教示義務違反はいずれもない。

3 争点(2)(違法な保護廃止の有無)について

原告は,被告保護係職員が辞退届の提出を強要し,違法に生活保護を廃止した旨主張するので,以下判断する。
(1) 原告に対する12月1日付けの生活保護の廃止は,通知書においては収入の増加及び取得が理由とされているものの(乙29),原告が提出した本件辞退届に基づいてなされたことは前記認定のとおりである。
ところで,法は,生活保護の廃止事由として,保護を必要としなくなったとき(法26条前段)や被保護者が実施機関の命令,指示等に従わないとき(法28条4項,62条3項)を規定するが,法が申請保護の原則を採用していること(法7条)に鑑みれば,被保護者による生活保護辞退の任意かつ真摯な意思に基づいてこれを廃止することも認められるというべきである。
他方,上記廃止事由がないにもかかわらず,被保護者の辞退が任意かつ真摯な意思に基づかない場合に廃止する場合には,当該廃止は違法となるというべきである。
(2)ア原告は,10月10日,Gが,本件辞退届を示して,「この紙を書かないと,お金が出るか出ないか分かんないよ。」,「いつまでも保護は受けたくないでしょう。」と述べたため,やむを得ず同届を作成したこと,及び11月30日又は12月1日,本件辞退届を返還して欲しいとHに求めたが,応じてくれず,そのまま生活保護を廃止されたと主張し,これに副う供述をする(原告〔11,12,21,22,38,39頁〕。甲1〔5頁〕も同旨)。
そこで,原告のこの供述の信用性について検討するに,前記認定(1(3)エ)のとおり,原告に対する生活保護の開始が,児童扶養手当が支給される予定であることなどから,短期の生活保護であることを条件とされていること(このことは,前記原告のケース記録票(甲3の2)や民生児童委員であるIに対する回答書面(甲13の2)の記載から明らかである。
なお,Hは,短期の生活保護という語を,短期間で自立可能なようにケースワーカーが支援することであると理解したと供述するが(証人H〔19頁〈146項〉〕),採用の限りではない。)に加え,Gは,12月に児童扶養手当等が支給されるようになり,同月の収入が就労収入約14万円に同手当約5万円を合わせて約19万円になる見込みがあるから,生活が可能ではないかと原告に説明した後に本件辞退届が作成されたと供述していること(証人G〔27,31,32頁〕)からすれば,被告保護係においては,原告に対する公的扶助状況等に鑑み,生活保護の実施期間を12月に至るまでに限定して生活保護を開始することを決定していたものと認められ,これによれば,本件辞退届の提出はもっぱら被告保護係の必要に基づくものと考えられ,同届の提出に際しては同係のGの強い働きかけがあったことが窺われること(Gは,辞退届取得の趣旨を,原告が自立する目標となるためと供述する(証人G〔3頁〕)が,採用の限りでない。),他方,前記認定のIによる書面(甲13の1)の記載からすれば,原告が,12月1日付けでの本件辞退届を作成したことを問題視し,強制的に作成させられたと考え,このことをIに相談したと認められるところ,原告が納得して同届を作成していたとすれば,このような行動に出ないのが通常であるというべきことに照らすと,原告は,予め12月1日付けで生活保護を任意かつ真摯に辞退する意思を10月10日に有していたとは認め難いこと等に照らせば,原告の供述は,あいまいな箇所も少なくないものの,上記供述に限っては,基本的にはこれを信用することができるというべきである。
イ原告の上記供述に加えアの各事実及び前記認定の事実を総合すれば,10月10日においては,予め12月に至るまでの短期間の生活保護をする決定をしていた被告保護係のGが,上記言動を用いて,原告を強く説得したものの,原告が納得しないままに本件辞退届を作成し,11月30日においても,Hがこれを前提として原告の求めに応じて同届を原告に返還せず,本件辞退届が提出されていることを利用して,被告所長において本件保護廃止処分をしたと認めるのが相当である。
そうすると,本件保護廃止処分は,原告の任意かつ真摯な意思に基づく保護の辞退によるものと認めることはできない。
ウ(ア) 以上の認定に対し,被告は,10月10日,原告の申出に基づき,任意に本件辞退届を徴求するとともに,11月30日,原告が,保護費が減額されることに納得せず,辞退を申し出たものである旨主張する。
この点について,証人Gは,ケース診断会議で,児童扶養手当が受給できる12月1日付けで保護廃止を目指すように指導された旨,原告に説明すると,原告からいつまでも保護を受けたくないとの申出があったので,納得のうえで本件辞退届を徴求した旨上記主張に副う供述する(乙23も同旨)が,原告が同届を提出した直後に不満を覚え,Iの元へ赴き相談していることは動かし難い事実であり,これに照らし,にわかに信用し難い。
なお,この時点では,保護開始決定の通知が原告に郵送されていたものであるが,原告としては同人が供述〔39頁〕するように支給が確定的なものではないと思ったものと考えられる。
また,証人Hは,11月30日,保護費から就労収入及び児童扶養手当分を控除すると説明すると,原告が納得いかないとして保護の辞退を申し出て,被告保護係で保管していた本件辞退届の空欄を埋めたと供述する(乙14も同旨)。
しかし,原告は,既に10月10日に12月1日付けで生活保護を辞退する旨の同届を提出し,その後Iに相談した後も生活保護の継続に関する事態が改善されていたことは窺えないのであり,生活保護は11月限りとの認識を有していたものと考えられる(甲16,原告〔38,39頁〕)から,11月30日の時点で改めて保護の辞退を申し出るというのもいささか不自然であり,また,当時の原告が受給していた保護費が約22万円(乙13では約24万円),給与収入が約10万円,児童扶養手当及び児童手当が約5万7000円であり,生活保護を辞退すると原告の生活費が1か月当たり約6万円の減額になること(証人H〔36,46,47頁〕)を考えれば,証人Hが供述する上記のような経緯で原告が保護の辞退を申し出るというのも理解し難く,これらの点に照らせば,証人Hの供述は採用できない(なお,証人Hの供述内容は,原告の辞退の申出は想定外であるとする一方,同人自身,保護の廃止については危惧を持っていたとするものであるが,それにもかかわらず,感情的になっている原告を時間をおいて説得することなく,直ちに廃止の手続をとったというのは極めて唐突な感じがするものである。)。
(イ) また,被告は,12月以降も生活保護を継続しようとして,12月分の支給手続をとっていたのであり,11月30日の原告の訪問が突然のものであったから,予め12月1日付けで生活保護の廃止をすることができないと主張する。
しかし,本件辞退届は,前記のとおり,10月10日の時点で,記載事項については,申請の日付を除き,署名押印を含めすべて記載されており,これを一時的にでも原告に返還したと認めるに足りる証拠はない(上記のとおり,証人Hも,被告保護係で保管されていたことを認めている。)。
そうすると,同届については,申請の日付を除き改めて原告に記載を求める事項は存在しないから,11月30日に原告が被告保護係を訪れることが必要であるとはいえない。また,Hが同月22日付けで12月分の支給手続をとっていて(乙13),11月30日に返金依頼手続をとった(乙10)からといって,そのことは必ずしも辞退届に基づく生活保護の廃止手続の妨げとならないというべきである(甲15〔13頁〕参照)から,この点は,上記認定及び判断を覆すには足りない。
(3) そして,前記のとおり,12月における原告の見込み収入は,公的扶助を併せても,最低生活費に満たないものであったことから,要保護状態は依然として解消していなかった(現に翌19年10月3日付けで生活保護が開始されている。)。
それにもかかわらず,被告所長は,原告から提出された本件辞退届に基づいて生活保護を廃止したものであるから,この生活保護の廃止は,違法であり,また,以上の事実に照らせば,同所長に過失があったことは明らかである(仮に,被告が主張するような事情で保護廃止に至ったとしても,上記の事実によれば,原告の辞退申出には錯誤があったというべきであり,原告の任意かつ真摯な意思に基づくものとはいえないから,被告所長の本件廃止処分が違法であり,そのことにつき過失があることには変わりないというべきである。)。

4 争点(3)(被告職員の発言等の違法性の有無)について

原告は,@Gが,原告に対して,長男や二男に頼んで布団を前夫宅からもらってきてはどうかと発言したこと,A被告保護係がIに対して送付した回答書(甲13の2)の記載,BGやHが原告に対して高圧的な態度を取り,大声で発言したこと等が違法であると主張する。
しかし,上記@は,前夫から配偶者暴力を受けた原告に対してした提案として不適切であるといわざるを得ないが,三男が前夫宅に戻ることがあったこと(証人G〔18頁〕等)などの事情を考慮すれば,その発言が必ずしも違法性を帯びるとまではいえない。また,上記Aについては,原告指摘の点については,表現上いささか穏当を欠く面がないではないものの,基本的には,Iからの書面による質問に対し,被告の見解を示すために必要な範囲で示したものであって,社会通念上是認できる程度を超えるものとまではいえない。
さらに,Bの点については,原告は,これに副う供述をするが,原告の供述を裏付ける資料はなく,他に,原告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告の上記各主張はいずれも採用できない。

5 小括

前記3によれば,被告は,公権力の行使に当たる被告の公務員である被告所長が,その職務を行うについて,過失によって違法な本件保護廃止処分をし,原告の生活保護受給権を侵害したことにより原告が被った損害につき国家賠償責任を負うものである。
この点について,被告は,本件のような金銭上の権利義務に係る処分については,処分が取り消されることのないまま国家賠償請求訴訟を認めることは,取消訴訟における出訴期間や不服申立前置の意義を失わせることになって許されないと主張するが,行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては,あらかじめ上記行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないから(最高裁判所昭和36年4月21日第二小法廷判決・民集15巻4号850頁及び同昭和42年9月14日第一小法廷判決・民集21巻7号1807頁参照),およそ,国家賠償請求は認められないとするこの主張は失当というべきである。
また,被告は,これが肯定されるとしても,公務員に故意又は重過失がある場合に限られるとも主張するが,文理解釈上,にわかに採用し難い。

6 争点(4)(損害額)について

(1) 得べかりし利益
原告は,得べかりし生活保護費相当額が損害となる旨主張するので,検討する。
本件保護廃止処分は,生活保護を廃止する金銭上の権利義務に係る処分であるところ,保護の実施機関がした処分について取消訴訟を提起する際には出訴期間の制限(行政事件訴訟法14条)のほかあらかじめ審査請求に対する裁決を経ていなければならない(法69条)という審査請求前置主義がとられているから(本件のように市町村長から事務を委任された福祉事務所長が処分をした場合につき法19条4項,64条,66条1項。),取消訴訟と国家賠償請求訴訟とがいずれも違法な行政処分に対する救済手段ではあり,要件及び効果を異にするものであることを考慮に入れても,生活保護を受けられなかったことによる生活保護費相当額の損害を認めると,本件保護廃止処分が取り消されることのないまま,処分の効果を否定するのと同じ効果をもたらし,出訴期間,審査請求前置の意義を没却するおそれがあるものということができるとともに,これに加えて生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする法の趣旨(1条)等も合わせ考慮すれば,慰謝料として考慮するのであれば格別,過去における要保護状態とは直ちに関係しない状態にある現時点で,本来支給されるはずであった当時の生活保護費相当額を得べかりし利益として損害として請求し得るとするのは相当ではないというべきである。
原告は,本件辞退届による生活保護廃止という形式がとられ,原告において生活保護廃止の適否を争うことができるという認識を有することができなかったものであるから,これらについて違法性を前提に国家賠償請求を認めても,出訴期間や不服申立前置の意義は失われないと主張するが,被告所長は,本件保護廃止処分をし,その旨原告に対して通知しており,原告が主張するような事情は認めるに足りない。
したがって,上記原告の得べかりし利益に関する主張は採用し難い。
(2) 慰謝料
被告所長の違法な本件保護廃止処分によって,原告は苦しい生活を強いられたのであり(甲1,原告),これによって,著しい精神的苦痛を受けたものと認められるところ,本件辞退届の提出の強要等前記認定の事実のほか本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば,これを慰謝するには,40万円をもって相当と認める。
(3) 弁護士費用
原告が本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人に委任していることは弁論の全趣旨により認められるところ,本件事案の性格,内容,難易度,審理の経過,認容額等に照らし,10万円を損害と認めるのが相当である。
(4) 合計50万円

7 結論

以上によれば,被告は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,上記損害額合計50万円及びこれに対する違法行為後である平成19年10月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よって,原告の請求は,上記の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから,棄却し,職権により被告に担保を立てさせて仮執行免脱の宣言をすることとして,主文のとおり判決する。

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離婚にも実現する方法が色々あります。
協議離婚をする場合には、夫婦で離婚を合意すればよく、原因に制限はありません。
夫、妻のどちらかが離婚に反対して合意が成立せず、裁判離婚をする場合には、法律の定める離婚原因にあたることが必要になります。
まず、家庭裁判所に調停の申し立てをして、それでもうまくいかない場合は、最終的には、裁判で決着をつけるしかありませんが、裁判で離婚がみとめられるためには相手に離婚されてもしかたがないというような法律の定める理由(法定離婚原因)にあたることが必要です。
離婚で弁護士に相談をするなら【離婚相談ドットコム】(http://r-soudan.jp/)。
法廷で離婚を争う状況になったら是非ご利用下さい。





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